女性創業者たちがベトナムでリーダーシップを発揮する日

Huong Tran氏が2014年に新規のビューティーリテール企業Epomiをベトナム人投資家たちに初めて売り込んだとき、彼女は彼らの反応に衝撃を受けました。

「女は感情的な生き物だから、会社の経営なんてできっこない。だから女の会社に投資したくないと言うのです。そう言ったのは、ベトナム有数の大手国際ベンチャーキャピタル企業の人でした。私はその企業に期待しませんでした」とTran氏は述べています。

そのときまで、Tran氏は自分の申し出を受け入れてほしいと真剣に投資家を説得するのに苦労したことはめったにありませんでした。Tran氏はデューク大学でMBAを取得し、サムスンやGSKなどの大手多国籍企業で10年間指導者の立場にあったベトナム人として、ビジネス界で長く活躍してきました。彼女が投資家たちを説得したとき、Epomiはすでに急速に売り上げを伸ばしており、熱心な顧客基盤を持ち、大手サプライヤーと優良な契約を結び、ベトナムにおいて急成長するビューティーリテール市場をリードする明確な計画を持ち合わせていました。

Tran氏は最終的に起業資金を調達できましたが、当初彼女が味わった経験は特段珍しいものではありません。先進国か新興国かにかかわらず、女性差別は世界共通の課題です。いわゆるセクハラも同様です。テクノロジー業界で(も)生じている永遠になくなりそうにない一連の性的ハラスメント行為は、社会的にますます白日の下に晒されつつあります。

しかしながら、男女平等の一定の基準については、ベトナムは他のアジア諸国よりも優秀な国と言えます。たとえばデロイトの最近の調査によると、オーストラリアを除くアジア・太平洋諸国のうち、ベトナムは女性取締役の割合が最も高い17.6%でした。世界64カ国を対象としたこの調査からは、ベトナムがシンガポール(9.4%)や中国(9.2%)などの近隣先進諸国はもとより、世界平均(15%)をも上回っていることが分かります。

女性が中小企業経営者に占める割合でも、ベトナムはかなり高いものがあります。アジア開発銀行とオーストラリア政府が共同で指導するメコン・ビジネス・イニシアティヴ(MBI)の2016年報告書によると、中小企業のオーナー全体に占める女性の割合は、ベトナムが約25%なのに対し、南アジアは8%にとどまっています。

ベトナム最大級の有名企業の一部も女性が経営者です。最も著名なのがNguyen Thi Phuong Thao氏です。Thao氏は、2017年前半にベトナム証券取引所に上場した人気の格安航空会社Vietjetの創業者兼CEOです。彼女が東南アジア唯一の女性億万長者になった一つの要因として、同社の成功が挙げられるでしょう。

著名な女性CEOは、スタートアップ企業のみならず、小売りから農業にいたる幅広い業界でも見られます。

一部の業界では、上級管理職のかなりの割合を女性が占めています。2014年から2016年にかけて、私はシンガポールに拠点を置く医療データ会社と協力しながら、ベトナムで新たなサービスラインを立ち上げました。この間、私はベトナムのほとんどすべての多国籍医薬品会社に売り込みをかけました。その多くは未だに外国人の男性が経営者ですが、私の商取引相手の大半は女性でした。また裏で女性が仕切っていることもしばしばありました。

ただし、すべての業界が同じ感覚なわけではありません。2015年まで遡ってみると、ベトナムで急成長するIT部門を扱ったテコノミー(Techonomy)の一連の物語において、国内ITサービス企業へのインタビューやサイト訪問を幾度も重ねましたが、その間、女性に出くわすことはほとんどありませんでした。他の諸国と同様、ベトナムのテクノロジー業界も女性は少数派です。とはいえ、一部の教育機関は、自国の科学・技術・工学・数学(STEM)分野における人材の構築に取り組みながら、常にそのことを気にかけています。

「ベトナムには優秀な女性ビジネスリーダーたちがいます。だからといって、この国の経済界で男女平等が実現しているわけではありません。」そう話すのは、サンフランシスコやアジア各地に事務所を置くインパクト投資ファンドのPatamar Capital(旧Unitus Impact)ベトナム事務所の社長Shuyin Tang氏。男女間格差を埋めるべく、最近Patamar Capitalは東南アジアにおいて女性オーナー企業向け投資ファンドを立ち上げました。

その他の組織も、ベトナムの女性実業家の支援に取り組んでいます。たとえばMBIは最近ベトナムの女性オーナー企業を支援するためのプログラミング・サービスを提供するマルチ・ステークホルダープログラムWomen’s Initiative for Startups and Entrepreneurshipの立ち上げを手助けしました。そのヴィジョンはメコン地域にまで拡大しています。もうひとつがWomen of Vietnamです。これは、ベトナム系オーストラリア人起業家が2015年に立ち上げたプライベート・コミュニティです。

こうした組織は、時に騒がれ論争となるトピックと格闘しています。ベストセラー『LEAN IN(リーン・イン)女性、仕事、リーダーへの意欲』の著者シェリル・サンドバーグ氏は、「職場で男女平等を持ち出す人は、深海や泥水の中を進んでいるようなものです」と書いています。「このテーマ自体は、性差の存在を認めるよう私たちに迫りながら、同一待遇という目標の達成を試みるというパラドックスを孕んでいます。」

しかし、男女平等を奨励し、仕事における女性差別を防止する運動が世界中で高揚しています。この運動がベトナムでもヒートアップしていることから、この急速に成長するダイナミックな国において、より多くの女性起業家がリーダーシップを発揮する日の来ることが期待されます。

ホーチミン市、今後数カ月で7万人の労働者が必要

ホーチミン市人材需要予測・労働市場情報(FALMI)センターによると、残る数カ月間(本記事は2017年10月16日付け)に、ホーチミン市では、衣料・繊維、販売、サービス、物流、ITなどの分野で約7万人の労働者が必要だとしています。

しかし多くの労働者は転職に後ろ向きです。年末にボーナスの支給が待っているからです。

人材サービス会社Navigos Group(オンライン人材募集ポータルVietnamWorkや幹部向けのNavigos Searchを傘下に持つ)の報告書によると、新たに採用する従業員に対して(損失分を補うために)ボーナスを支給してもよいとする企業も出てきているようです。

電力部門の労働市場は、ベトナムの電力需要を満たすために火力発電が引き続き拡大すると見込まれることから、長い沈黙状態から抜け出て、力強さを取り戻すでしょう。

外国投資家による多くの太陽エネルギープロジェクトが全国各地で提案されています。

ソーラーパネルの購入・設置費用が大幅に下落するなか、ベトナム政府はソーラーエネルギーへの投資奨励策を用意しています。

マネージャー職の高い需要
Navigos Searchによると、2017年最終四半期における企業のクライアントによる中堅・上級ポストの需要は前年同期比で19%も高まりました。

管理職の需要が最も高い産業としては、銀行・金融業、消費財、小売り、情報通信技術(ICT)、製造業、サービス業などがあります。

銀行・金融業では、銀行、保険会社、消費者金融会社からの需要が最も高く、サービス業では、採用需要の多くが広告・マーケティング会社からのものでした。

ICT産業における需要は第3位で、ITサービスやシステム統合の仕事が大半を占めています。これらのポストは、主に各種プログラミング言語の経験があるマネージャーやエンジニア向けです。

Navigos Searchによると、消費財産業のいくつかの多国籍企業は2017年最終四半期に、ベトナム北部山岳地域の地域セールス・マネージャーの採用に取り組んでいました。

経験のある人材は、この地域で仕事に就こうとは考えませんし、経験の乏しい人材は雇用側の要求を満たしていません。

加えて、北部地域の中堅セールス・マネージャーの弱点は、英語力です。

ベトナムにおける国際的ファッションブランドの誕生は、あらゆるレベルのベトナム人労働者により多くの雇用機会をもたらしています。

小売業においては、合併・買収(M&A)が今も続いています。いくつかの有名なベトナムブランドが、日本とタイの企業によって買収されています。M&A取引は、ベトナム人スタッフが国際的勤務スタイルと専門的チェーン・マネジメントについて直接知る機会をもたらしています。

給与に関していうと、最高支給額は消費財産業の上級マネージャー職で、月額約3億VND(1万3,157米ドル)です。

不動産、銀行業、ICT、製造業などの中堅・上級マネージャーの給与は、月額1億〜2億2,000万VND(4,385〜9,649米ドル)です。

FALMIセンターの報告によると、2017年最終四半期における労働者の採用需要は前年同期比で約24%上昇しました。

人手不足に悩む電子機器企業

労働傷病兵社会問題省(MOLISA)当局者によると、ベトナムでは多くの電子機器企業が人手不足に陥っているといいます。

オートメーション技術がヒトの労働に取って代わるという予測は数々ありますが、ベトナムの電子機器メーカーではまだ人手が足りていません。特に技能や資格を持つ人材が不足しています。

MOLISAの労働科学・社会問題研究所(ILSSA)労働環境条件研究活動センターの責任者Chu Thi Lan氏によると、ベトナムの電子機器企業の数は、2006年から2015年までの10年間で307社から1,165社へと年16.3%増の勢いで急増しており、電子機器企業で働く労働者数も2009年から2016年までの10年間で14万2,800人から45万3,200人へと急増しています。

ただし、彼ら労働者の約70%はその仕事に必要とされる資格を持っておらず、電子機器企業の80%は熟練労働者の深刻な人手不足に直面しているといいます。

この人手不足を招いている要因のひとつに「新しい技術」を挙げているのがILSSA所長のDao Quang Vinh氏です。

「新しい技術は、激しい変化への適応を労働者に求め、競争を活発にし、製造コストを引き下げ、より質の高い労働者の需要を確立する」とVinh氏は述べています。

しかしながら、ベトナム人労働者の大半は地方出身者で、技術職の訓練をまともに受けていません。そのため、技術変化に適応する柔軟性が彼らに欠けていると指摘するのがMOLISAの労働者・労組研究所の所長Vu Quang Tho氏。

Tho氏はまた、製造工場の過酷な労働条件も一部労働者の離職を助長していると述べています。

MOLISAの主任調査官Nguyen Tien Tung氏は、2017年にベトナム国内の電子機器企業216社で不正が発覚したことを明らかにしています。「いずれの企業も、従業員に超過勤務を強いており、それらの企業の6割が時間外勤務手当の規則に違反していた」ようです。うち27社は、重大な労働法違反で14億VND(6万1,600 米ドル)の罰金が科されました。それら企業の多くが労働者の権利を保証していなかったとTung氏は指摘します。

労働条件改善のため、電子機器企業に対して労働慣行の刷新、労働規則の厳守、労働基準の維持などの措置を実施すべきだと主張しているのがChu Thi Lan氏です。

Lan氏は、「電子機器企業は、強制労働と児童労働を絶対に避け、35歳超の労働者の解雇を差し控えるべき」とも唱えています。

電子機器企業は、新しい技術を導入する場合、その都度訓練・再訓練を労働者に施すべきだと主張するのが前出のDao Quang Vinh氏。

Vinh氏は、「労働者は(技術)変化を敏感に感じ取り、新たなニーズに応える新たな技能を習得する用意がなければならない」とし、「技術変化についていけない労働者には、他の雇用機会について情報が提供されるべきだ」と述べています。

Vinh氏はまた、電子機器企業で働く労働者の雇用の安定とOJTが図られるような政策の実施を政府に求めています。

研修を求めるベトナムの若者たち

ホーチミン市のグエン・ヴァン・ラック通りにあるMai Sen Bistroは、ヨーロッパやアジアの料理を提供する、よくある「素敵なレストラン」とは違います。同店で働くスタッフは、恵まれない若者を対象とする国際標準の料理講座を無料で開く職業学校Anre Maisen Hospitality Training Centre出身の研修生です。

ドイツの二元的職業訓練システムに倣ったこのモデルは、ベトナム人のドイツ料理シェフで実業家のFrancis Nguyen Van Hoi氏がベトナムに導入したものです。

ドイツで最も成功したベトナム人の一人Hoi氏は、全国的なテレビ料理番組にゲストとしてしばしば呼ばれ、大企業が大宴会を催すときは、たびたび彼に助言が求められています。

「私は36年間ドイツで生活し、料理の腕のおかげで路頭に迷うことはありませんでした」と現在67歳のHoi氏は語っています。

1975年4月のサイゴン(現在のホーチミン市)陥落後、南(ベトナム)の激変によって、混乱と恐怖に陥ったHoi青年は母国を去る決意を固めました。

1976年1月にドイツに渡ったHoi氏は、最初はBavarianという居酒屋のセラーで働き、皿洗いやサラダづくりの仕事をして生計を立てていました。

3年後に法的資格が変わり、わずかながら蓄えができたため、料理学校に2年間通いました。料理人となったHoi氏は、ドイツ全国の企業やオフィスに食事を提供するグループのディレクターとなりました。その後、自分の料理店を持ち、ドイツのレストランにアジア料理を提供する会社を設立しました。

「ドイツの教育制度に感銘し、感謝しています。その二元的職業訓練制度の下で、研修生は会社でOJTを受け、賃金を得ながら職業学校に通います。ですから、この制度をベトナムに導入できれば、ベトナムの若者に同じようなチャンスを与えられると思ったんです」とHoi氏は語っています。

1990年に母国の土を再び踏んだ彼の心のなかで、ホスピタリティ研修センターの構想はますます膨らみ、ドイモイ(再生)政策の第一段階までに若干の変化もありました。

観光業とホスピタリティ産業は、当時はまだ発展の緒についたばかりでしたが、その豊かな文化、歴史、自然を含めて、ベトナムの観光業は大きな潜在性を秘めていました。

「ホスピタリティ産業のことをよく知っているからこそ、母国の発展に貢献したいんです。」

「なにより貧しい人たちを手助けしたい。戦争は多くのベトナム人から良い生活や明るい未来のチャンスを奪い、多くの家族や子供たちに飢えと貧困を強いました。」

「飢えや貧困がどういうものかはよく分かっています。私自身が貧しい子供でしたから。あの頃のことは今もけっして忘れません」と振り返るHoi氏。

Hoi氏は、父母と8人の兄弟姉妹がいました。彼は両親にとって初めての子供でした。Hoi氏の両親はドンナイ省南部の貧しい農家の出身でした。一家は約3,000平方メートルの痩せた農地を耕して暮らしていたそうです。

両親は知人のつてを頼ってHoi氏をサイゴンの慈善学校に通わせました。息子にもっと良い食事と勉強ができる機会を与えてやりたいとの親心からでした。

「私はいつも慈善学校、特にスロヴェニアからやって来たAnre Mai Sen司祭に感謝していました。司祭は慈愛に満ち、貧しき者を助けてくださいました」とHoi氏。

「Anre Mai Sen司祭は、私にとってお手本です。司祭は、裕福な人たちに障害者を助けるよう呼びかけました。仕事で成功を収め、より良い生活を送れるようになったら、私は貧しい人たちを助けたいと考えていました」と語るHoi氏。彼にとっては、それこそがAnre Mai Sen司祭や自分を助けてくれた人たちへのご恩に報いる方法なのだと言います。

ドイツに家族を残して2013年にベトナムに帰国したHoi氏は、非営利のホスピタリティ研修センターという彼の構想を実現しました。

「家族と遠く離れ離れで暮らしたいと思う人はいないでしょう。私の妻も息子も同じです」とHoi氏。「ですが、私は彼らにこう説明しました。30年間ドイツで生活し、私は夫として、また父として義務を果たしてきた。私が今日あるのは、多くの人たちのおかげである。今こそ直接間接にその恩義に報いるときなのだと」。

Hoi氏は家族に応援され、60歳代で母国に戻り、18歳から22歳までの恵まれない若者たちに宿泊付き研修コースを無料で提供しました。

Hoi氏の学校では、3年間の研修でホスピタリティの要領を学び、修了時にはドイツ商工会議所による試験を英語で受けます。全カリキュラムは、ドイツの高い基準に従って構成されており、研修生は外国人の教師や顧客らと意思疎通ができるように英語も学びます。それは、彼らが将来国際レベルのレストランで働くときのための準備でもあります。

2014年半ばに彼の学校に最初の研修生を迎える準備として、Hoi氏は恵まれない子供たちに研修コースがあることを知らせるため、地区や教会、パゴダ、慈善学校に案内状を出しました。街で出会ったストリート・チルドレンにも直接声をかけました。

「私の非営利センターには多くの人が懐疑的でした。特に資金面で。子供を教えるにも、彼らに研修や宿泊施設を提供するにも、外国人教師を雇うにも、レストランを借りるにも、多額の資金が必要だからです。」

Hoi氏の資力ではとてもそれらを賄いきれません。そこで彼は、ベトナム国内外で寄付を募りました。

「ベトナム人でわが子を料理人やウェイターやパン職人にしたい親はいないという声もありました。むしろ親の願いは、わが子を大学に通わせ、将来エンジニアや医者、会計士、銀行家にしたいということなんです」とHoi氏は語ります。

Mai Sen Schoolの最初のコースには36人の研修生が入校しました。彼らは2017年半ばに卒業しました。このうち10人はそのまま学校に残って働きましたが、その他の卒業生は市内のレストランやホテルに就職しました。

彼らの月給は約8〜10VNDで、新米のコックとしては比較的高いほうです。

「生徒が成長する姿を見るのは嬉しく、励みにもなります」とHoi氏は言います。

「ある卒業生がこう話してくれました。彼女は家族に嘘をついてMai Sen Schoolで学んでいたと。というのも、コックという厳しいわりに恵まれない仕事に娘が就くことを家族は望まなかったからです。しかし最初の給料をもらった日、彼女は本当のことを家族に話し、彼らの理解を得たのです」とHoi氏は語っています。

このベテランシェフは、職業学校に対する差別は残念だと言います。

「あらゆる職業は尊敬され平等にみなされるべきです」と語るHoi氏は、自分や自分の仕事がドイツのような先進国で尊敬されていることを喜んでいます。

現在21歳のPham Thi Thu Hau氏は3年前、高校卒業後にMai Sen Schoolの最初のコースを受講しました。ハノイ市第一区のホテルでウェイトレスとして働くHau氏は、3年間にわたる学業と寄宿生活は、忘れられない思い出でいっぱいだと語っています。

Hau氏は、クラスで教え、キッチンで生徒に指示するときのHoiシェフの厳しさが印象に残っているといいます。しかしながら、教室を一歩出ると、Hoi氏はとても気さくで、ユーモア感覚もありました。

Hau氏は、Mai Sen Bistroの店内が閑散とし、学校運営のための資金が乏しく、生徒も教師もコメと野菜だけを食べていた頃のことが今でも想い出されるといいます。

野菜を食べ過ぎて、胃袋が真緑になるほどだったと皆冗談を言い合っていました。

最初の3年間、学校は多くの困難に直面したようです。Hoi氏はふだん午前3時に起床し、市場に出かけます。午前5時頃から、教える者と教わる者とが協力して料理の準備に取り掛かります。テーブルを整える者もいれば、野菜を洗って刻む者もいます。最初のレッスンでは、多くの研修生が包丁の持ち方すら知らず、何の肉の切り身なのかも分かっていませんでした。

「今では事が段取りよく運ぶようになってきている」と言います。Mai Sen Schoolで学ぶ若い研修生は125人おり、彼らの寄宿費は月約4,500万VND(2,000米ドル)です。

同校で学びたいと応募してくる若者は増えていますが、全員を受け入れることができないのが現状です。寄付者からも、良質な水準の研修と生活条件を維持するため、研修生の人数を制限するよう求められています。

大学は出たけれど。。。

Nguyen Van Duc氏は2年前、ベトナム有数の名門大学で経済学の学士号を取得しました。現在はハノイのバイクタクシー運転手として働いており、月収は約250ドルです。

両親とも副業で遣り繰りしなければならないほど貧しい家庭だったため、3人兄弟のなかで大学に通えたのはDuc氏だけでした。ベトナムの失業率は2.3%にすぎませんが、Duc氏は、大学は出たけれど、好きな分野の仕事に就けない何千人もの大卒者の一人です。

「大学では、厳しい理論的訓練を受け、共産党の歴史とホーチミンの思想を詰め込まれただけでした」と、その25歳の青年は語ります。

ベトナムの学校では、低賃金の組立流れ作業の基礎的スキルを教わりますが、大学はもっと複雑な仕事ができるような教育をしていません。ベトナム人労働者の賃金が上昇し、基幹製造業が他の低賃金国に流出してしまえば、世銀の定義する「中所得国」(一人当たりの所得4,000ドル以上、これは現在のベトナムの水準の約2倍の水準)を達成するというベトナム政府の野心が頓挫しかねないからです。

スタンフォード大学の開発経済学者スコット・ロゼール氏は、「次の経済段階にうまく移行できた国は、中所得国である間にすでに先進国並みの教育レベルに到達しています。そこに到達していない国は立ち行かなくなります。つまり中所得国の罠に嵌っているのです」と指摘しています。

シンガポール、韓国、台湾は、高学歴の労働者が必要になるはるか以前から質の高い大学を備えていました。逆に、アルゼンチン、ブラジル、メキシコなどは、教育投資が不十分だったこともあり、中所得国になってからも鈍い歩みを続けています、とロゼール氏は言います。

ベトナムの大学生が最初の2年間の大半を費やして学ぶのは、批判的思考のような雇用者の期待するスキルではなく、革命指導者ホー・チ・ミンや社会主義、共産党の歴史についてです。その挙げ句、学位はあっても必要なスキルを欠く労働者が増産されるのです。そうした労働者に対して多額の賃金を支払うことを企業は嫌がる、とベトナム商工会議所は説明しています。現在、ベトナムの大卒者の失業率は17%にのぼります。

政府への圧力
「ベトナムに進出してくる外国の民間企業は、優秀な熟練労働者や管理職、エンジニアを求めています」と語るのは、ホーチミン市にあるハーバード・ケネディ・スクール・オブ・ガバメントの上席研究員Nguyen Xuan Thanh氏です。「ベトナムでは中間層が拡大しています。親御さんは教育の改善を求めており、その期待に応えるよう政府への圧力は強まっています。」

最近は、将来の就職のことを考えて、子弟を海外で学ばせようとする親が増えています。日本学生支援機構によると、語学学校を含めて日本で勉強するベトナム人の数は、2016年5月までの6年間に12倍以上となる約5万4,000人にまで増加したといいます。

当局も課題は認識
「政府は、大学における訓練の質を改善しようとはしています」と語るのは、教育省の新たなカリキュラム戦略を監督しているNguyen Minh Thuyet氏。「私たちは、仕事に役立たない科目の削減に向けてカリキュラムを刷新する必要があります。ただし、その進捗状況ははかばかしくなく、ほとんど前に進んでいません。」

識字率と生産性
ベトナムの大学は過去10年間で約450校にまで増えました。政府は、大学進学者数を今後10年間で約8%増、2020年までに56万人にする計画です。

労働科学・社会問題研究所の調べによると、2017年のベトナムの識字率は97%でしたが、ベトナム人労働者の3分の1が高卒でした。

現状において、ベトナムは生産性が低いわりに、急速に発展しています。世界銀行は、ベトナムの成長率は2019年までは6%超を続けるとの見通しを示しています。ただし、その労働力から最大限の生産性を引き出しているかとなると、ベトナムは域内諸国の後塵を拝しています。

ベトナム経済の工業生産力は、東南アジア諸国のなかでも最低水準にあります。シンガポールの工業生産力はベトナムの26倍、マレーシアのそれは6.5倍、タイとフィリピンのそれは1.5倍です。

プラス材料
それにもかかわらず、いくつかの理由から期待も持てます。米国務省から資金援助を受け、ベトナム政府が承認した初の独立・非営利組織フルブライト大学ベトナム校が今秋開校する予定です(同校のThuy Dam Bich校長談)。同校ではマルクス主義も教えられますが、欧米の大学で通常おこなわれているように、ヘーゲルやカントらの哲学と同様に扱われます。

企業各社は、労働者の能力を期待する水準に引き上げるため、若者に追加の教育を施しています。ベトナム最大の情報通信会社FPTは、国内約2万人の高校生や大学生を教育するための施設を備えています。ホーチミン市に組立・試験工場を持つインテルは、複数の教育プログラムに2,200万ドルの出資を約束しています。

しかしながら、この国の既存のシステムに嵌ったまま身動きのとれない人にとって、教育は「時間とカネの膨大な無駄使い」になる可能性があると労働科学社会問題研究所のLuu Quang Tuan副所長は指摘しています。

「多くの大卒者は、チームワークや組織的技能のような企業で働くための重要なスキルを欠いており、それも経済の足を引っ張っている要因です」とTuan副所長は述べています。

ベトナムが年間10万人以上の労働者を海外へ

ベトナム労働傷病兵社会問題省(MOLISA)によると、ベトナムは2020年までに労働者10万〜12万人を海外に派遣する計画です。

このうちの80%の労働者には事前に訓練を施す予定です。

MOLISA海外労働局のTong Hai Nam副局長によると、2017年の1月から11月までの間に海外で働いていたベトナム人労働者は11万8,859人(4万4,702人の女性を含む)にのぼるといいます。

海外で働くベトナム人労働者の数が10万人を超えるのは2017年で4年連続になります。

2006年から2016年までの間に年平均8万7,500人のベトナム人労働者が海外で働いていました(毎年4.2%近く増加)。

2016年のベトナム人海外就労者数は前年比8.9%増の12万6,000人でした。

このうち30%以上が研修を受けましたが、その前年となる2015年に研修を受けた労働者はベトナム人海外就労者全体のわずか15%でした。

2018年にベトナム人労働者は、より良い労働条件の下で、より高い所得を得られる新たな労働市場において働くことのできる新たなチャンスに恵まれるでしょう。

2018年の最も魅力的な市場は日本です。日本はベトナム人労働者が一定の分野で再就職することを許可しているからです。彼らの給与は、0.22〜0.25米ドル上昇することになります。ベトナム人労働者は、就労期間の延長が5年間まで認められます。

2018年の日本は、肉体労働者よりもエンジニア、技術者などの高度熟練労働者をより多く必要とするでしょう。

現在50万人のベトナム人労働者が他の国や地域(日本、韓国、マレーシア、台湾など)で働いています。

一方で、労働法規違反が絶えません。MOLISAの海外労働局は、海外人材派遣会社46社の名前を挙げ、免許を取り消しにしました。

それらの企業は、労働契約書に署名せずに労働者を海外に派遣したり、自社の人材派遣免許を別の個人や組織に使わせて、労働者を違法に募集し、手数料を徴収するのを許したりしていました。これらの行為は、ベトナム人海外就労者法(2006年公布)違反です。

また海外に労働者を派遣して違法に手数料を徴収したり、その他の違反行為を犯したりしていました。

これらの違反は、労働者との信頼関係のみならず、外国企業とのそれをも崩すものです。

当局がマスコミに語ったところによると、法令違反企業の数は過去最大だといいます。

ベトナムで営業する海外人材派遣会社は290社にのぼります。

MOLISAは、海外就労者の質の改善をめざし、そのための具体的措置として、海外人材派遣に厳格な規制を設ける意向を明らかにしています。

MOLISAはまた、2017年1月1日以降オンライン契約登録を実施するよう海外労働局に指示していました。その結果はオンライン上で公表され、すでに各社に送付されています。