ITの仕事は「女の子にはきつい」という女性差別的な規範に異議あり

ベトナムの女性の非識字率は男性の2倍です。読み書きができない少女たちは、科学技術分野の女性差別的な規範に公然と異を唱えています。

わずか3年前まで、Pham Thu HuongさんはemailアドレスもFacebookアカウントも持っていませんでした。そのため、ベトナム全土で増殖するインターネットカフェに行ったこともありません。実際、キーボードに手を触れることすらなかったのです。

その彼女が、今やコンピューター科学で大学の学位を取得しようとしており、ビデオゲームのコード解読に熱心に取り組んでいます。“Xin chao, the gioi”(「ハロー・ワールド」の意味のベトナム語)といった簡単な挨拶を印刷するのに予め習得しておかなければならないプログラミング言語全体に感動しています。

マイクロソフトの教育施策YouthSpark(ユーススパーク)の支援を得て、Huongさんは、アルバイトにあまり時間を取られることなく、学業により多くの時間を割けるようになりました。テクノロジー研究に関心を持つ将来有望な若い女性を対象にしたこのプログラムは、ハノイにある教育開発センターという非営利団体によって運営されています。学生たちは、職業上の目標について論文を書き、資金援助が必要な理由を説明した文書を添えて申請します。

YouthSparkは、テクノロジー部門を重視する一方で、より幅広い歴史的な流れも考慮に入れています。もともとベトナムには、サイゴン港に植民船を迎え入れた貿易商から、中国との陸の国境を自由に往来した商人にいたる、個人の起業家精神という伝統があります。この伝統の淵源は、多くの国々が誕生するよりもはるか昔にさかのぼります。

しかし、情報技術がもたらした現代の変化は、この伝統を更新しつつも、十分な知性があり懸命に努力する人であれば、その生い立ちを問わず、物事を成し遂げられるという精神を伝えています。

Huongさんの場合、出身地はナムディンの村で、首都ハノイからは100キロ以上離れたところにあります。その村は、豆腐と竹笠の商売で知られています。ナムディンでは、彼女の母親が病気の夫と息子を養うために野菜を売って生計を立てていました。Huongさんは近所のサイバーカフェでゲームをするための小遣いを両親にせがもうとはしませんでした。村はインターネットで繋がっていましたが、Huongさんに関するかぎり、World Wide Webは彼女の暮らす世界の片隅にまでは届いていませんでした。

その後Huongさんが将来テクノロジー分野で働きたいと考えるようになったとき、友人や親戚、隣人たちは口を揃えてこう言いました。「小娘がITの世界で何をしようというの?」

ある晴れた週末、オートバイに乗って颯爽と姿を現したHuongさんは、最近あるインタビューで、「みんな同じことを言うの。そりゃあ、きついよ。たぶん女の子にはすごくきついと思うよって。今でも彼らは、それは男の子がやることだって考えてるみたい」と答えています。

ベトナム人の独立をめざした徴(チュン)姉妹の反乱について書かれた小学教科書から、妊娠中や出産後の婦人を保護する職場政策にいたるまで、ベトナムは男女平等を国家の中心的な課題に据えています。それでも、女性差別的な規範はまだ生き続けています。Huongさんの村の人びとは、コンピューターは男がやるものというイメージに囚われていました。彼らが言うには、お前は女なんだから、ふつうの仕事に就くよりも教師のような仕事に就くほうがずっと向いていると。

しかし彼女の病弱な父親は、そのようなことは言いませんでした。Huongさんは昔を懐かしむように笑みを浮かべながら、父親がIT分野で働くよう彼女に勧めてくれたときのことを語ってくれました。ITスキルがあれば、娘には仕事が簡単に見つかり、自分のように経済的に苦しまずに済むと父親は思っていたのでしょう。Huongさんは当初、教育学を専攻しようと考えていましたが、父親を思いやって、教育学に代わる進路を探していました。たまたま叔父の家にあったパソコンをいじくるようになり、すべての情報が楽々と手に入ることに驚嘆しました。結局、彼女は首都ハノイの国立大学でコンピューター科学を専攻することに決めたのです。

Huongさんは今年(2018年)、ベトナム全国の8大学を対象とするYouthSparkスカラシップを受けられる女子学生80人のうちの一人となりました。IT関連の学位を重視するこのスカラシップは、ベトナムの幅広い経済開発目標にうまく適合しています。ベトナム政府は、テクノロジーを中心に据え、独自の促進措置を関係者と共同で設立しました。またIT起業者に対する税制その他の優遇措置を中小企業支援法に盛り込み、企業のオンライン・ビジネスを奨励するキャンペーンを推進しています。

しかしながら、女性が舞台の中央に躍り出るにはいたっていません。ベトナムでは女性の非識字率が男性のそれの2倍ですし、男性が1ドル稼ぐのに女性は75ドルしか稼げないのが実状です。Huongさんの学校にはコンピューター科学専攻の学生が56人いますが、女学生は彼女を含む8名しかいません。これも、科学・技術・工学・数学(STEM)における男女不平等の顕著な表れと言えるでしょう。

それでもなお、Huongさんはコンピューターやゲーム、それらの複雑な内部構造について徹底的に調べることに昂奮していました。彼女がプログラミングの勉強に使っているラップトップパソコンは、マイクロソフトの社員から贈られたものです。

「ゲームをやっていると、これって本当におもしろいなあって感じます。でもコンピューター科学を勉強していると、ゲームからバグをなくするには、たくさんの知識と経験が必要なんだと分かります。どのコマンドがどう作用するか、その論理を正確に知ることは、なんて素敵なことなんだろう」とHuongさんは興奮気味に語ります。

卒業後、彼女はソフトウェア試験技術者の仕事に就きたいと考えています。すでに日本の技術大手企業である東芝ベトナムから正社員採用の提示を受けています。これにどう応じるかはHuongさん次第です。

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