来たるべき時代のFDI政策

1987年に外国直接投資法が制定されてから30年が経ちます。この法律は、当時の東南アジアにおいて外国直接投資(FDI)について定めて最も優れた法的枠組みの一つでした。たとえば、外資100%出資に関するインドネシアとインドの同様の法律に先んずるものでした。投資協力委員会は、非常に簡単な行政手続きでもって免許を発行しました。これは、外国投資家にとって魅力的でした。

1988年から1990年にかけて、政策立案者はベトナム経済の現実に合致した法律と政策について研究しました。そして、この3年間の投資はきわめてわずかでした。小型プロジェクトを集めて、FDI登録資本は総額約10億ドルで、うち資本支出は3億ドルでした。

1991年から1998年にかけて、ベトナムは経済危機から脱出し始めました。民間部門と同様、経済一般と国内市場が特に発展し始めました。その結果FDIは急速に増加し始め、この間の投資総額の30%を占めるほどでした。年間のGDP成長率は平均で約8.5%でした。うち約3%ポイントがFDIによるものです。ベトナムはこのときの経験から、市場経済と国際慣行に基づく法的枠組みを構築し完成させる方法、既存の規制の欠陥をすぐに見つけ、経済活動に関わる問題を適正に規制するために適時に調整する方法について学びました。

アジア経済危機後の1999年から2004年にかけて、海外からベトナムへのFDIは激減しました。登録資本は6年連続約30億ドルで、うち資本支出は約20億ドルでした。

2005年から2007年までの間にFDIは回復し、2007年の登録資本は720億ドル、うち資本支出は80億ドルでした。中央政府の管理分散化措置によって、登録資本は急増しましたが、多くの大型プロジェクトは実施されませんでした。中央政府が評価・許認可権を地方当局に委譲したとき、いくぶん不健全な競争が生じました。財務能力がない一部の投資家に免許が交付されたのです。そうしたプロジェクトは一向に前進しませんでした。

2008年から2011年にかけて、ベトナム経済は世界経済危機のあおりを受け、ベトナムにおいて支出されたFDI総額は80〜90億ドルでした。2012年から2017年にかけては、海外からベトナムへのFDIは急増し始めました。2017年の資本支出は過去最高水準の約170億ドルに達し、登録資本は358億8,000万ドルとなりました。

登録資本と支出総額との大きな開き
総じて、ベトナム政府はFDIを誘致する投資環境の構築に真剣に取り組んできました。過去30年間のベトナムのFDI登録資本は総額3,187億2,000万ドルで、うち1,750億ドルが支出されました。

ただし、登録資本と支出総額との間には約1,900億ドルもの大きな開きがあります。この差額について考えるため、具体的に2つの不動産プロジェクト(ハノイのCiputraとホーチミン市のPhu My Hung)を見てみましょう。このケースでは、登録資本が30〜40億ドルなのにたいし、実際に支出されたのはわずか2〜3億ドルでした。概して、投資家はFDI登録資本の15%ほどしか支出せず、残りは「登録された」だけだと考えられます。登録投資30〜40億ドルの類似のプロジェクトについても、実際に支出された額はごく一部です。

1,900億ドルの差額のうち約500億ドルを完全に支出するのに3年はかかります。これは重要な問題です。そこで私は、ベトナムにはFDIがまだかなりあるとの認識を避けるため、ベトナム計画投資省が年間の登録資本から支出総額を除くように提案しています。

さらに1,750億ドルの支出うち10〜15%は(合弁資本であるか、土地としてかはともかく)ベトナムからのものです。実際の外国資本総額は約1,500億ドルと、世界的にも高いと言えます。

FDIの影響
2017年現在の資本支出額1,750億ドルは、過去30年間の投資資本総額の約22%を占めています。しかしながら強調しておきたいのは、FDIはベトナムの発展に間違いなく大きな影響を与えたということです。

労働力の観点からは、FDIのおかげで300万〜350万人が雇用され、ベトナムの雇用問題を大幅に解決しました。FDIセクターで働く労働者の給与は、他のどこよりも常に高く、たとえば、サムスンが拠点を置くベトナム北部のタイグエン省とバクニン省における労働者の平均月給は1,100万VND(480ドル)です。FDI企業にはもっと多くのマネージャー、技術者、研究者も働いています。これは、FDIによってベトナムの労働力が改善したことを示しています。

2015年から2017年までの間に、ベトナムにおける外国投資家の研究開発センター(サムスン、パナソニック、ボッシュなど)は、主としてエンジニア、ソフトウェアエンジニアなど何万人も雇用しています。サムスンによると、これらの研究開発センターで働く若いベトナム人労働者は高い資格を持ち、労働の質やその他の要件も満たしていると言います。これは、ベトナムの労働力という観点から最大の成功と言えるでしょう。FDIは有能で若い科学スタッフたちを生み出しています。その多くは、国有企業に戻って働いています。ベトナムの相当数の銀行の重役もFDI企業で働いていました。

技術移転に関しては、FDIのおかげで、ベトナムには世界でも最も近代的なテクノロジーが輸入されています。一部の産業は、石油・ガスや電気通信などの外国投資のおかげで、近代的なテクノロジーを幅広く利用できています。ベトナム計画投資省は、FDI企業で使用されているテクノロジーは、概して国内企業で使用されているものよりも優秀だと指摘しています。

投資と輸出の観点からは、2017年に初めてベトナムの輸出入額は4,000億ドルを超え、世界ランクで第25位、ASEANではシンガポールに次ぐ第2位となりました。特にサムスンは、2017年に総額500億ドル以上の製品を輸出しました。これはベトナムの輸出総額の25%を占めています。投資と輸出の拡大は、国際経済統合におけるベトナムの成功を物語る明らかな証拠です。FDIがなければ、ベトナムが国際市場に深く関わることはなかったでしょう。

ベトナム最大の利点は、政治の安定であり、次いでマクロ経済の安定です。後者の安定には、高い成長率(2017年は6.81%)、低インフレ率、ベトナム通貨ドン(VND)の安定、外貨準備(2017年は530億ドル)が含まれます。ベトナム政府は、健全な投資環境の構築、腐敗の撲滅、行政負担の軽減に継続的に取り組んでいます。

他方で、なかなか解消しない問題もあります。第一に、腐敗はいまだ深刻です。第二に、監査・行政手続きは企業にとって依然として複雑で、物流コストも高い状態です。第三に、知財法が外国からの投資を抑制しています。第四に、ベトナムは諸機関・制度の安定と税法への取り組みが不十分なため、FDI企業が自分たちの投資環境を決定することができません。

FDIの見通し
ベトナムは、情報技術、電子機器、IOT(モノのインターネット)、クラウドコンピューティング(特にインダストリー4.0が支配する)などの高い付加価値を創造する産業やハイテク製品にFDIを優先する必要があります。ベトナムはまた、サービス、教育、科学研究にFDIを誘致する必要もあります。

来たるべき時代により多くのFDIを誘致するには、変化が必要です。第一は、方向性と政策を変えることです。私たちは、国内企業の能力を超える分野にFDIを誘致するべきではありません。昨年(2017年)、あまりに多くの100万ドル以下の投資プロジェクトに注力したせいで、投資家の持つ多くの潜在能力を無駄にしてしまいました。

第二は、優遇措置を変えることです。私たちは、税制優遇措置を実施していますが、社会経済的効率のための財政的奨励措置は実施していません。したがって、ベトナムが採用した開発の方向性に沿った社会経済的効率を示している国内外の投資家に対してはその他の優遇措置を用意する必要があります。

第三に、私たちはパートナーの選択肢をもっと広げる必要があります。ベトナムがインダストリー4.0に沿って進んでいくに伴って新たな方向性を実施するためには、日本や韓国の中小企業に加え、大企業、特にハイテク分野の多国籍企業の力を求めることも必要です。

私たちは、中小企業(特に関連産業で働く)の潜在能力を見くびるべきではありませんが、大企業にも手を伸ばす必要があります。たとえばヴィングループは、投資資本総額35兆VND(15億ドル)のヴィンファスト自動車製造工場を建設するためにジーメンスと協力しました。FDI企業は一層の拡大を続けるでしょうし、ベトナムは将来も魅力的な投資先であり続けるでしょう。